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強さとは
高校3年 M・Tさん
視界が歪んで、突然続きが読めなくなった。声にならない声をあげて、胸が一杯になって、気づくと私は泣いていた。
今まで本を読んで泣いた事は何度かあった。切ない、苦しい、悲しい、美しい、うれしい…様々な理由があって私は文章によって涙を誘われたのだが、今回、私は自分で自分が泣いている理由というのがわからなかった。箱根駅伝の真最中の場面であったのだ。でも私はふと考えた。胸が一杯になって涙を流すとは、こういう事なのかもしれない、と。この本の陸上部の皆と共に箱根駅伝まで走ってきた私の心の中に納まりきらなくなった感情たちが涙を伝って私から溢れ出したのだ。
読み終わってまず、私は静かに目を閉じ、自分の大切な仲間たちを心に思い描いた。私ににっこり微笑みかけては次から次へと現れる大事な人達を思って、私は心が熱くなった。
初めはまとまらなかった、「好みも環境もスピードも違うもの同士」の大学生達が、どうしてこんなにも一つに、”仲間”9になっていくのだろうか……そんなことをずっと考えながら読み進めるうち、私はふと、初めて”仲間”というものを強く意識したのはいつだっただろうかと思い出してみた。
私の心にまず流れてきたのは、決して完璧ではないが、とても一生懸命さの伝わる演奏だった。聞いたことがある曲だけど……何だったかな……そんな風に思い返して私ははっとした。そう、これは小学生の頃に入っていた吹奏楽部の演奏だと。
十歳になった春だっただろうか。マウスピースをそっと口にあてて吹いた時に流れ出た優しいフルートの音色に、私は心を奪われた。それからというもの、毎日毎日練習をし、いつの間にか私はフルートと一体になっている自分に気付いた。フルートを通して流れるその音色は私の感情であり、主張であった。そして一つの私自身の思いが、合奏という形で、世界を造る。当時吹奏楽の中で初めて”仲間”と合奏した時、自分の周りの世界が全て音に包まれる喜び、美しさを知った。その時の心が震えるような感動は、時間が経った今も、私の心の中にちゃんと生きていたのだ。
この本の主人公である走は、ストイックでタイムにしか興味のない高校の陸上部で長距離の選手だった。とても才能のある選手だったのだが、周りの他の部員たちとはずっと仲間と呼べる間柄ではなかった。そんな孤独であった走が、箱根駅伝を走りたいと願う灰二と大学で出逢う。そして初めて仲間と呼べる竹青荘の人達と、走りを通して少しずつ、心を通わせていくのだ。
走にとって走ることは、私にとってフルートのようなものなのだろう。どうしてこんなに魅せられるのか、どうしていつの間にか心が癒えているのか、自分でもわからない。でも、周りの人たちは、それを「美しい」と言ってくれる。
そう、走が走る場面では、よく「美しい」という表現がでてくる。走が走ることは喜びであり、走の全身から放たれるその喜びは人に伝わって美しさとなるのだ。なんて素晴らしいことなんだろうと思った。自分の主張、思いが人に伝わるのには、こんな伝わり方があるのかと驚かされた。
人には、言葉以外にも、もっと深い所で本当の自分というものを表現できる何かがそれぞれあるのだろう。それは、人によっては歌うことだったりする。スポーツや絵を描く事だってそうなのだろう。本当の自分を見せることは、難しく考えるととても困難なことのように思える。でも実は色んなやり方があって、それは思いの外、単純なことなのかもしれない。
私は一時期、本当の自分が何なのかわからなくなって、悩んだことがあった。私は昔はそうでなかったのだが、自己主張というものがどんどんできなくなっている自分に気づいたのだ。人に流され、断る事を恐れ、主張する事に臆病になり、気づくと私が私ではないような、そんな思いに襲われた。常に周りの目を気にしている自分がとても馬鹿馬鹿しくなって、私は元の自分に戻ろうと、常に「自分をしっかり持つんだ」と自らに囁きかけるようになった。それから驚くほど心が軽くなり、自分が自分でいられる事の喜びを知った。
走は、昔の陸上部で一緒だった部員から、試合の度に挑発をうけたり嫌味をいわれた。初めは動揺し、自分の気持ちが乱れていた走だったのだが、走りを通して出会った竹青荘の仲間が彼を変えた。最後には、気にもとめなくなる。これこそまさに、「自分をしっかりもつ」、ぶれないという事だろう。これには、”強さ”がいると思う。”強さ”―この本にはこうあった。
「苦しくても前に進む力。自分との戦いに挑み続ける勇気。目に見える記録ではなく、自分の限界をさらに超えていくための粘り。」
これは何事に置き換えても言える事だろう。強さ…私はまだまだ弱い。人の言動、行動、様々なものによって、私は自分のすべき事に集中できなくなったりする。でもきっと、自分で自分と葛藤していくことで、走のように最後には「本当の強さ」というものを手にできるのだろう。
今高3の私には、大学受験という壁が立ちはだかる。私にはそれが、箱根駅伝に見える。たくさんの歓声は家族、先生方の声であり、そして走ることは、自分のペースを乱さずやるべき事に徹すること、そしてすぐ周りを見れば、苦しい時も共に戦う最高の仲間たちがいる。
私は幸せだ。こんなにもたくさんの人に支えられている。この本は教えてくれた。真の強さを。仲間の素晴らしさを。感謝の意味を。私は強くなりたい。その為に、私は走り出す。