春木先生のおすすめ本



寝ながら学べる構造主義
内田樹著
文春新書



最近読んだ心に残った本 Best5をお聞きしました。

1. 佐々木敦著 「ニッポンの思想」
2. 絲山秋子著 「逃亡くそたわけ」
3. 京極夏彦著 「鉄鼠の檻」
4. 大沢在昌著 「風化水脈」
5. 島田荘司著 「秋好英明事件」


「寝ながら」ではダメ。


でも、一番大切なところは誰にでもわかる本。

内田樹「寝ながら学べる構造主義」(2002620日、第1刷、文春新書)

著者は内田樹(「たつる」という)。
神戸女学院大学の先生で専門はフランス現代思想。この数年、ベストセラーを連発している人で、本当にたくさん書いている。本だけでは足りないらしく、著者のブログ(http://blog.tatsuru.com/)は、数日に一度の割合で更新されている。その来訪者数を示すカウンターを、試しに今チェックしてみると「15063748」。1500万。すごい。

「構造主義」というのは、現代(正確には50年くらい前から20年くらい前まで)のフランスの思想家、哲学者、文化人類学者、文芸評論家、精神分析家、などに共通している「主義」、と言われている。

でもこの本は、中学生や高校生に読んでもらおうと思って書かれた本では、まったくない。

おそらく想定されている読者は、おじさんやおばさんたちだ。
なぜ、そんなことがわかるのか?

実は30年くらい前の日本で、この「構造主義」の本が大流行した、らしい。「らしい」というのは、私が生まれたころの話なのだが、私が大学生になった15年くらい前でも、まだその流行の片鱗は十分に残っていた。

問題だったのは、この「構造主義」について書かれた本は、どれもこれも「邪悪なまでに難解(本書あとがきより)」だったことだ。つまり、流行っているからという理由で手にとったほとんどの人たちは、結局「構造主義」とはどんなものなのか、理解できなかった。

なぜ理解できなかったとわかるのだ、と思うだろう。これにも根拠がある。
「構造主義入門」というタイトルの解説書が、世の中にはたくさん、たくさんあるからだ。私の家の本棚にも10冊くらいはある。

要するに、若いころ小難しい思想書を読もうと思ってリタイアしたおじさんやおばさんに向けた、「すらすら分かるような、「ふつうの言葉」で書かれたフランス現代思想の解説書」が、本書なのだ。

だから、中学生や高校生がこの本を読んで「うーん、わからん」というところがあっても、仕方ない。そういうときは、手近なおじさんやおばさんに質問すればいい。学校の中には、おじさんやおばさんがたくさんいる。彼らも本当の所は分かっていないかもしれないが「分かったフリ」の仕方は教えてくれるはず。

もうひとつ、重要なこと。
この手の複雑で、むずかしそうな「理屈」について書かれた本を読むときには、いくつかの読み方がある。

1、全体を熟読する。
2、全体をさらっと読む。
3、大切そうなところだけ、熟読して、それ以外のところはさらっと読み飛ばす。

お勧めなのは、「3」の読み方。
大切そうなところはじっくり。そうじゃなさそうなところはさらっと。わかりにくいところもすっとばして、全部読み終わったあと、もう一度、読んでみる。
(そういうとき、どこがわからなかったかメモを取りながら読むと、後で探しやすい。)

スミからスミまで、すっかり理解しようと思うと、とっても時間がかかるからだ。
実のところ、本書は、次の二つの部分がしっかり読めていればいい。

構造主義の思考方法は、いまや、メディアを通じて、学校教育を通じて、日常の家族や友人たちとの間でかわされる何気ない会話を通じて、私たちのものの考え方や感じ方を深く律しています。(中略)むしろ、「自明のもの」だからこそ取り上げる意味があるのです。というのは、学術に託されたたいせつな仕事の一つは、私たちにとって、「自明なもの」であり「自然のもの」であり、「そんなの常識」として受容されているような思考方法や感受性のあり方が、実は、ある特殊な歴史的起源を有しており、特殊な歴史的状況の中で育まれたものだ、ということを明らかにすることだからです。(18頁)」

「構造主義というのは、ひとことでいってしまえば、次のような考え方のことです。
 私たちはつねにある時代、ある地域、ある社会集団に属しており、その条件が私たちのものの見方、感じ方、考え方を基本的なところで決定している。だから私たちは自分が思っているほど、自由に、あるいは主体的にものを見ているわけではない。むしろ私たちは、ほとんどの場合、自分の属する社会集団が受け容れたものだけを選択的に「見せられ」「感じさせられ」「考えさせられている」。そして自分の属する社会集団が無意識的に排除してしまったものは、そもそも私たちの視界に入ることがなく、それゆえ、私たちの感受性に触れることも、私たちの思索の主題となることもない。
 私たちは自分では判断や行動の「自律的な主体」であると信じているけれども、実は、その自由や自律性はかなり限定的なものである、という事実を徹底的に掘り下げたことが構造主義という方法の功績なのです。(25頁)」(強調は引用者)

200頁あるこの本の残りの頁は、この「構造主義の考え方」を使ってモノを考えると、何が違って見えるのか、ということに関する具体例。だから、ひとつやふたつわからないところがあっても、問題ない。興味のあるテーマのところだけ、熟読すればいい。

さらに本書は、基本的にいろいろな本からの引用で構成されている。だから興味のある分野がみつかったなら、その本を探して読んでみればいい。「参考文献」や「引用文献」のリストはそのためについている。

「寝ながら」読み解けるほどには簡単ではないが、一番大切なところは誰にでも必ずわかるように書かれている。ちょっと背伸びをして読むには、ちょうどいい本だと、昔、苦労して邪悪な本を読んだおじさんは思う。


2010年6月16日 HP掲載