2022/08/08

母の笑顔 4

本日は4回目である。お付き合い願いたい。
 
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「で、お医者さんは、どう言うてはんの?」と、声を潜めて尋ねる。
「まあ、年寄りやから、薬も効くのやら効かんのやら、いつ治るのやらどうなるのやらは、正直分からんってさ」
「えっ?万が一ってことも?」
「まあ、それはないやろけど、もう91歳やで。何があってもおかしないわなあ」。あっけらかんと応える長姉。日頃母親の傍に居ながら面倒見ている心の余裕なのか。
 
「何があってもおかしない」という言葉にも、母に対する達観した自信のようなものが感じられた。日頃一緒に過ごしていない私は、母にとって、時々やって来る「外来者」のままで終わってしまうのだろうか……。
 
ベッドに横たわる、入れ歯を外した、しわくちゃの婆さん。深いしわ、櫛の通っていない髪の毛、シミだらけの頬、深く落ち込んだ目元。先週出会った小娘のような、あの快活な笑顔は消えていた。
 
「散歩デート」が、彼女にとってどれほどの生き甲斐だったのか。91歳の素顔を見ながら、母の思い、息子と会える喜び。そんな彼女のいじらしさが私の胸を締め付ける。
 
 
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本日はここまで。明日は最終回である。