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ことばの贈り物
「大根を半分」をご紹介したい 2
2022/09/19
「大根を半分」をご紹介したい 2
祝日のひと時。いかがお過ごしだろうか。昨日に続いて「大根を半分」の後半をお届けしたい。
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彼はすぐに視線をまた広告に戻したが、その老女を見て、母親を思い出さないわけにいかなかった。彼の母親もまた、大根は一本しか買いそうもないタイプだったからだ。
母親は東京から一時間ほど離れた地方都市に住んでいた。父が死んでからは古い借家にひとりで暮らしている。狭いマンションで一緒に暮らすよりは気楽だろうと思い、また、母親自身もそう言うのでひとりで暮らしてもらっている。
しかし、ひとりで暮らすということは、日々の生活の中で、この老女のように大根の半分をどうしようかと悩むことでもあったのだ。彼は初めて母親がひとりで暮らしているということの意味が理解できたように思えた。これまでは、あえてそのことは考えないようにしてきたところがあった。
「もらっていただけませんか」
老女がまた言った。
「ええ、でも……」
若い母親のためらいの言葉を耳にしながら、なんとかもらってくれればいいが、と彼はひそかに願っていた。
「ひとりだとこんなに食べ切れないんですよ」
若い母親は、ようやくもらうべきだと判断したらしく、どういうことになるのかと振り返って見つめていた少女に、いただこうかしら、と相談するように言ってから、老女に向かって訊ねた。
「ほんとにいただいちゃって、いいんですか?」
「どうぞ、どうぞ」
「それじゃ遠慮なく」
すると老女は嬉しそうに言った。
「無駄にならなくてよかったわ」
そのやりとりを聞いて、彼だけでなく、バスの中にホッとした空気が流れたのがわかった。
老女は前の席に座っている少女に声を掛けた。
「おいくつ?」
「九歳」
「まあ、大きいのね」
老女はそう言うと、ひとりごとのようにつぶやいた。
「うちの孫の方がひとつお姉ちゃんだわ」
その瞬間、彼の胸が痛んだ。自分にも十歳の息子がいる。その老女が自分の母親でもよかったのだ。
あるいは、自分の母親も買い物をするたびに大根の半分に心を悩ませているかもしれない。そうした意味では、自分が親子三人で送っている安定した東京での生活も、離れて住む母親にいくつもの小さな悩みを押しつけていることで成り立っているといえなくもないのだ。
もちろん、母親は一緒に暮らそうといっても断るだろう。しかし……と彼はバスの中で思っていた。自分は席を譲るべき人が眼の前に立っているにもかかわらず、気づかぬふりをして狸寝入りをするような男と、ほとんど同じことをしているのではあるまいか、と。
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以上である。いかがだったろうか。以下、少しばかり考えてみよう。
【考察】「狸寝入りをする男」と主人公の「自分」との共通点は、どんなことだと考えられますか?
17日の内容に関して
1.阪神ファンなのかな?アンチ阪神ファンなのかな?
2.太郎君は一体どんな挨拶をしたのかな?
3.子どもは今、どこにいるのかな?
4.誰が「立派な大人」なの?
以上である。
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