2026.07.24

【校長通信】 令和8年度 第1学期終業式 校長訓話  AI時代を生きる皆さんへ――『便利』と『幸せ』は同じなのか

1学期が終わります。まずは、この4か月間、本当によく頑張りました。授業、定期考査、学校行事、部活動、それぞれに努力を重ねてきたことと思います。

さて、今日は少し「未来」の話をしたいと思います。皆さんは、10年後、20年後の社会がどのようになっていると思いますか。私は、皆さんが社会に出る頃には、今とは大きく違う世界になっているのではないかと思っています。その理由は、AIの進化です。皆さんも普段からAIを使っている人が多いと思います。文章を書かせたり、調べ物をしたり、画像を作ったり、英語を勉強したり、本当にさまざまなことができるようになりました。

世界的な実業家であるイーロン・マスク氏は、「近い将来、AIはほとんどの知的作業で人間を上回る可能性がある」と語っています。その予測が、本当に数年で実現するのかどうかは分かりません。しかし、AIが急速な勢いで進歩していることだけは間違いありません。さらに、AIとロボット技術が組み合わさることで、これまで人間が行ってきた仕事の多くを機械が担う時代がやって来ると言われています。

これまで、物の値段には多くの人件費が含まれていました。人が設計し、人が工場で作り、人が運び、人が販売する。だから、人件費が上がれば物価も上がる、というのが当たり前でした。
しかし、もし設計もAI、製造もロボット、物流も自動運転、販売もAIが担うようになれば、人件費は大幅に減ります。すると、今では20万円近くするような高性能のスマートフォンも、将来はもっと安く手に入る時代が来ると予測する人もいます。

もちろん、本当にそうなるかどうかは分かりません。しかし、「これまでの当たり前」が大きく変わる時代が来ようとしていることは、多くの専門家が共通して語っています。そこで、皆さんに一つのお話を紹介します。

今からかなり前になりますが、「ユニバース25」と呼ばれる有名な実験が行われました。研究者は、ネズミにとって理想的な環境を作りました。天敵はいません。食べ物も水も無限にあります。温度も快適です。働く必要もありません。まさに、何不自由ない楽園です。研究者は、この環境ならネズミは幸せに繁栄し続けるだろうと考えました。ところが、結果は全く逆でした。

ネズミたちは次第に子育てをしなくなり、仲間との関わりを失い、生きる意欲をなくし、最後には集団そのものが消滅してしまいました。もちろん、これはネズミの実験です。人間社会にそのまま当てはまるわけではありませんし、この実験の解釈についてもさまざまな議論があります。しかし、この実験は私たちに「便利になること」と「幸せになること」は、本当に同じなのかという問いを投げかけているように思いました。私は、イコールとは思いません。人は、思い通りにいかないことがあるから考えます。失敗するから工夫します。難しい課題があるから成長します。そして、自分が誰かの役に立っていると感じられるから、生きがいを持つことができます。もしAIがすべて答えを出してくれる、ロボットがすべてやってくれる、そんな時代になったとしても、人間まで考えることをやめてしまってはいけません。むしろ、AIが発達する時代だからこそ、人間にしかできないことの価値は、ますます大きくなります。

何を学ぶべきか。
どんな問いを立てるか。
誰のために行動するのか。
人と協力して新しいものを生み出すこと。
挑戦すること。失敗してももう一度立ち上がること。

こうした力は、人間にしか身につけることのできない力です。知識だけではありません。知識をどう使うか。人とどう協力するか。社会にどんな価値を生み出すか。その力こそが、皆さんの未来を切り拓いていきます。

さて、明日から夏休みです。夏休みは自由な時間がたくさんあります。しかし、自由とは「何もしなくてもよい」ということではありません。自由とは、「自分で選び、自分で責任を持つ」ということです。
一日中スマートフォンを見て終わることもできます。ゲームだけをして過ごすこともできます。それも皆さんの自由です。しかし、その自由をどう使ったかが、2学期の皆さんを大きく変えます。ぜひ、この夏は、自分で何か一つ挑戦してください。

苦手な教科を克服する。一冊でも多く本を読む。部活動で自分の限界に挑戦する。家族のために役に立つことをする。新しいことを学ぶ。旅に出て、知らない景色を見る。どんな小さな挑戦でも構いません。高校3年生は、自分の夢を実現するために、この夏を人生で最も努力した夏にしてほしいと思います。

それらの経験は、AIには決して真似できません。経験こそが、皆さんだけの財産になります。私は、この言葉はAI時代だからこそ、さらに重みを増すと思っています。知識はAIが教えてくれる時代になるでしょう。しかし、挑戦した経験だけは、AIが皆さんに代わって積み重ねることはできません。

だからこそ、この夏、自分自身の意思で何か一つ、新しいことに挑戦してください。
その挑戦が、皆さんの未来を支え、人生を豊かにしてくれるはずです。
8月の始業式で、ひと回り成長した皆さんと、元気な笑顔で再会できることを楽しみにしています。