読書感想文コンクール表彰式

 第26回(2008)読書感想文コンクールの審査が
終わり、12月22日の終業式で30名の受賞者の表彰
が行われました。
 最優秀賞……1名
 優秀賞……9名
 佳作……20名
でした。

 最優秀賞を受賞した田中美咲さんは、第54回大阪府青少年読書感想文コンクール(高等学校の部)自由読書部門でも入選しています。
 下記に受賞作品と寸評(本校教諭)を掲載します。

【最優秀賞】
課題図書: 『夢十夜』
感想文題名: 「死とは」
氏   名: 高校1年1組 田中 美咲
 皆が泣いている。真っ黒な服を着て。そして真ん中には、ついこの間まで病院でおいしそうに果物を頬張っていたおじいちゃんの写真、そして皆の悲泣とは逆に、まるで旅立つ祖父を歓迎するかのように美しく飾られた、たくさんの花々。母に導かれるように祖父の元へ行った。そこには、すやすやと眠るように横たわる祖父の姿があった。
「おじいちゃん。」
 そう呼んでも返事はない。何だか訳がわからず泣いた。当時五歳になって間もない私にとっては、うまく理解できない事であった。これが、私にとって人生で初めての、大切な人との永遠の別れだった。
 夢十夜を読んでいるときに、私の祖父のお葬式の様子が鮮明に蘇ってきた。夏目漱石が見たのであろうこの十の夢は全て、死、または生につながっている。愛する人を亡くす夢や、殺される夢、逆に殺意が目覚める夢、自分が死んでしまう前に愛する人に会いたいと願うが、叶わない夢、などである。一つ一つの夢は、およそ三、四ページしかなく、とても短いのだが、それぞれ全てとても深いものであった。私はいとも簡単に、夏目漱石の夢の中へひきずり込まれていったのである。
「死」とは何なのか。こんなに単純かつ深い質問は他にないのではないか。私はそう思う。少なくとも五歳の時の私よりも、今は理解できているのではないかな、とは思うが、今も尚よく分かっていないし、ただ「死ねば全てが終わる」とは考えたくないのである。第一夜に、こんな文を見つけた。
「死んだら、埋めて下さい。大きな真珠貝で穴を掘って。そしたら天から落ちて来る星の破片を墓標に置いて下さい。」
 なんて美しい文なんだろう。そう思った。死ぬという事を、とてもロマンチックに表している。この言葉は、死に際に女の人が告げたものなのだが、この後に「また逢いにきますから。」とある。この言葉の意味は、後に分かる事になる。彼女を埋めてから百年後のことだ。その地から、
「細長い一輪の蕾が、ふっくらと弁を開いた。」とある。これが、「生まれ変わり」というものなのか。目を閉じれば、美しい蕾が朝日を照びてキラキラ輝きながらゆっくりと華麗に花を咲かせる様子が鮮明に浮かんでくる。そして、その次に
「遥かの上から、ぽたりと露が落ちた。」
と書かれている。私は、この露は生まれ変われたことの彼女の喜びの涙なのではないかと思う。もう一度、この世に戻って来たんだ、という生きる喜びが強く伝わってきた。
 では、私の祖父は、今何に生まれ変わっているのだろうか。生前歯科医であった祖父は、毎日毎日朝から晩まで働き通し、真面目で、頑固で、そしてとても優しかったという。そんな祖父は、桜を見るのがとても好きだった。だからきっと、祖父のように背が高くて、どっしりとしていて、見る人全てを包み込むような勇ましい桜の木になっているのではないかと思う。私が今年お花見をした桜の木の中には、おじいちゃんがいたのかもしれない。あの皺だらけの顔をにっこりとさせて、私達を見下ろしていたのか。そんな風に考えると、おじいちゃんは決してとてつもなく遠い所へは行っていないんだ、という思いが一層強くなる。
 こんなにも死について、あれこれ考えさせられる物語はないと思う。この夢十夜では、「死」の答えは一つでないのだ。「死ぬ事は美しい事で、生の一部なんだ。」そう納得したと思えば、「死とは、この世の何よりも恐ろしく、できれば逃れたいものだ。」という思いを押しつけられる。その答えの差について行くのが大変だが、またそれがとても面白かった。始めの方で記述した「死の答え」は、結局見つからなかった。でもその真の答えを見つけた時…それは死に値するのだろうか。祖父は亡くなる直前に、死についての答えが出ていたのか。それは誰にも分からない。だが、お葬式で見た祖父の顔は、とても清清しいような、どこか「美しい」と思わせる神神しさがあった。「答え」は出なくとも、この「夢十夜」を通して、一貫して言える事は、死とはつまらないただの「終わり」なのではなく、「最後の大山」ともいうべき人生の総まとめ、いわばクライマックスなのだという事だ。だがクライマックスまでは分かっても、その先のフィナーレに何があるのかは誰も知らない。だからこそ、私は、私だけに与えられたこの人生を、思う存分生きて、誰にも負けないような素晴らしい最期を迎えよう、と強く思う。


[評]
 「夢十夜」は一話ずつがあまりに鮮明な印象を与えるがために、全体に言及した感想文を書きにくいという難しさを秘めています。それを田中さんは「死」というテーマに注目して巧みにまとめました。ややもすれば観念的に流れやすいテーマを扱いながら、祖父との永訣という体験を中心に据えることで、文章に説得力を持たせています。自らの生きていく力として作品を取り込んでいく能力が高いことに感銘を受けました。小説という虚構に更に夢という虚構を重ねた漱石の思いについても、いずれ考察を深めてみて下さい。それが様々な「答え」を束ねることにつながることでしょう。